乙女ゲームってどれぐらい英語圏で人気があるの?
北欧のオトメイトと呼ばれるビジュアルノベルのパブリッシャー設立を目標に日夜夢を追いかけている、Miyaです。夢は大きい方がいいですよね。
ということで、みなさんお待ちかね(?)の欧米、乙女ゲーム事情の続きです。
近年、NetflixやAmazon Prime,Crunchyrollなどのストリーミングサービスがどんどんと欧米でアニメを流すようになり、アニメは一般の人たちの目に届くようになりました、そして個人的にも海外在住者としては涙が出るほど、とてもありがたい存在です。
そんな日本のサブカルが英語圏広まってくると、相乗効果で芋づる式にいろんなジャンルやコンテンツが日の目を浴びていきます。
とくにビジュアルノベルについては、当初Steam内ではそういったジャンルが存在しないも同然と思われていた(こちらの記事でその詳細を述べています)中で、日本向けのものが日本国外で売れているという話も出てきています。
今回は、そのビジュアルノベルの中のいちジャンル、乙女ゲームの欧米での市場規模について語っていきたいと思います!乙女ゲームで欧米に参入したい皆様の参考になれば幸いです。
1. 乙女ゲームは3つのプラットフォームで遊ばれている。
英語圏の乙女ゲームプレイヤー(以後、欧米プレイヤーと呼ぶ)にとって、最も中心的なプラットフォームはRedditのr/otomegamesコミュニティで、現在9万人以上のメンバーがいます。2020年、このコミュニティに対して1,400人以上のメンバーを対象にに行われた調査によると、コミュニティは主に3つのプラットフォームでゲームをプレイしている: PC/Mac(85%)、携帯電話(78%)、Nintendo Switch(59%)ことがわかりました。
欧米プレイヤーは、この3つのプラットフォームで乙女ゲームを楽しんでいることになります。今回は、この3つについて追跡調査をしました。
Nintendo Switchの乙女ゲーム
Nintendo Switchの乙女ゲーム市場規模を正確に計算することは難しい作業です。欧米において、乙女ゲームの大半はダウンロード専売で売り上げ数がSteamのように推測できたり、パブリッシャーが公表することがかなり少ないからです。
しかし、今回は欧米での販売本数がわかる古い乙女ゲーム『Code:Realize』と『Collar x Malice』から推測していきます。
『 Code:Realize』はコンソールで成功した乙女ゲームで、欧米では乙女ゲーム初心者に勧められるほどの定番です。VGChartzによると、本作のPS Vita版は米国とカナダで約6万本の売り上げを記録しています。GameIndustry.bizによると、2014年の時点でVitaで販売されたゲームのおよそ50%はデジタルダウンロードだったそうなので、控えめに見積もっても『Code:Realize』は欧米で12万本程度売れたと考えてもいいでしょう。
『Code:Realize』のパッケージ版はそこまで流通していない(どんな店の店頭にも置かれるようなゲームではない)こと、2014年以降はデジタルダウンロードがより普及していった事を考えれば、実際はもっと多く売れていると考えられます。
もうひとつのヒットタイトル『Collar x Malice』の北米でのパッケージ販売数は約1万本。この販売本数の少なさは、ESRBのレーティングがM(17歳以上)であったことも一因でしょう。シリーズ公式情報(デベロッパーが日本語で発表している情報)がなければ、コンソールの売上について正確な数字を出すことは難しいですが、入手可能な情報を見る限り、欧米でNintendo Switch向けに発売され、ヒットした乙女ゲームの売上は数万本程度と思われます。
PC/Macの乙女ゲーム
PCゲームの売上はSteamが圧倒的に多いため、Steamの数字を使用します。また、英語以外の言語によるレビューが大半を占めるゲームは除外して調べています。
Steam自体はゲーム販売数を公表していませんが、SteamのAPIを使用して販売本数や収益などを推定するツールは数多く存在します。ここではそういったサードパーティーの提供する推定値をもとに考えていきます。乙女ゲームの市場規模を知るには、基本無料型、有料型とゲーム販売形態ごとに見ていく必要があります。
ヒットした乙女ゲームの多くは無料でリリースされ、DLCコンテンツで収益を得ています。Gamalyticの数字によると、最も成功した乙女ゲーム2つは20万ダウンロードを超えており、2022年に登場した『ERROR143』推定売上はそれぞれ14万3000ドル以上(約2,200万円)。
2024年にリリースされた『A Date with Death』の推定売上は21万5000ドル(約3,300万円)とされています。
実は、有料型乙女ゲームの最高売上本数も負けてはいません。が、売上も高い『ハートフル彼氏』や『薄桜鬼』など、Steamで約10年前から配信されているロングラン製品がそれに該当します。
2020年以降にリリースされた有料型ゲームだけを考慮すると、市場規模の見積もりはかなり小さくなります。
『BUSTAFELLOWS』はSteamで推定24,000ダウンロード、53万5,000ドル(約8,250万円)の収益を上げていますが、このゲームは価格もかなり高く設定されており、パブリッシャーのバンドルにも含まれているので、少し特殊というか異常値と考えていいでしょう。
次点で売れているのは『Arcadia Fallen』で11,500ダウンロード、売上は約19.1万ドル(約2,950万円)。他には1万ダウンロードを超えるゲームはありません。欧米の乙女ゲームプレイヤーの多くはパソコンでゲームをプレイしていますが、オトメイトのような会社から発売される最も人気のあるゲームの多くはコンソール専用ゲームになります。
Steamには400を超える乙女ゲームがあり、その数は年々増加しています。成功した基本無料タイトルであれば10万人のプレイヤーを獲得、有料型タイトルであれば1万本売れれば大成功な部類と言えるでしょう。
モバイルの乙女ゲーム
モバイルにはData.aiやSensor Towerなどの販売額推定プラットフォームがあるので、今回はこれを用いて、乙女ゲームプレイヤーに関連する2つの「タイプ」を検証してみました。
最も成功しているのは、PlayMe Studiosの『MeChat』やCrazy Maple Studiosの『Chapters』のような「ストーリー・プラットフォーム」です。
これらのゲームでは、多くの個別のストーリーが用意され、幅広い観客を対象としているのが印象的。これらのゲームはLGBTQ+を包含しており、プレイヤーは男性、女性、またはノンバイナリーであることが可能であるため、可能な視聴者の幅が広げられます。
MeChatは2024年3月に40万回ダウンロードされ、iOSとAndroidデバイス全体で月間収益110万ドル(約1.7億円)とSensor Towerは推定。同様にChaptersはiOSとAndroidで30万回のダウンロードと月間収益400万ドル(約6億円)と推定されています。
キャラクターが決まっていて、舞台が決まっているアニメスタイルの乙女ゲームも、モバイルプラットフォームではかなり成功している。NTTソルマーレのゲーム『Obey Me! - Anime Otome Sim -』は2024年3月に約3万ダウンロードを記録し、11万ドルの収益を上げた。
CYBIRD社の『Ikemen Villains Otome Game』も同様のダウンロード数で、売上は約5万ドルだった。
『ミスター・ラブ Queen's Choice』のダウンロード数は1万件を下回ったが、売上は10万ドルだった(ダウンロード数が伸び悩んでいるのは、このゲームが2023年後半以降アップデートされていないことも一因と思われる)。
幅広い恋愛コンテンツを提供するモバイルゲームは、ダウンロード数も収益も非常に高く、収益的に大成功を収めることができる。プレイヤーが男性キャラクターとしか交流できないゲームは、ユーザー数は少ないが、安定したダウンロード数と収益を獲得できるといえる。モバイル乙女ゲームでは、月間ダウンロード数が数万件台前半、収益が月10万ドル(約1,500万円)程度であれば売れ筋といえるでしょう。
まとめ
インディーの乙女ゲームを作る場合、多くはSteamで有償型、基本無料配信になるかと思います。その場合は基本無料型で10万DL、有償で1万ダウンロードが大成功のラインになるといえるでしょう。
モバイルのストーリープラットフォームでは、月間数万DLと10万ドルの収益が成功ラインとなります。ただし、モバイルにおいてはケモノ、LGBTQ+などを取り入れることで間口を広げて更なる売上を目指すこともできるかもしれません。
2.乙女ゲームプレイヤーの年齢
この情報は、欧米の乙女ゲームコミュニティで行われた4つの調査から得られたものです。ほとんどの調査では、Redditが主催する乙女ゲームプレイヤーのハブであるr/otomegamesからの回答者が主体になっています。2つの調査は欧米のインディーゲーム開発者が行ったものになります。(詳しい引用元は最下部をご確認ください)
調査が行われたのは2018年~2023年なので時期に違いはありますが、総じていくつかの年齢傾向がわかります。
調査回答者の約10%が18歳未満で、調査によって8%~12%と幅があります。18歳未満のカテゴリーを設けた1つの調査では、オンライン・コミュニティには16歳未満のプレイヤーがほとんどいないことを示しています。
古い調査では18~30歳の層が約75%を占めていましたが、直近の調査では18~30歳の層は69%まで下がっています。30歳以上のプレイヤーは2018年では約15%程であったが、直近の調査では23%まで増加。これは時間の経過によって高年齢層が増加したためと思われます。
調査結果から、18~30代の減少に伴い、30代以上の層が増加していることから、年齢を重ねても乙女ゲームをプレイし続けている乙女プレイヤーが増加していると判断できるでしょう。この調査結果をもとに、乙女ゲームのオンラインコミュニティを大まかに推計すると以下のようになります。
日本では『アンジェリーク』が生まれた時代から乙女ゲームの若いファンが生まれ、成長し、今では幅広い年齢層に乙女ゲームのファンがいます。欧米もそうなっていくのでしょう。
3. 最も売れた乙女ゲームのデータ集(弊社調べ)
Steam PCゲーム
これまでの乙女ゲーム市場の考察を踏まえ、「無料でダウンロードできるもの」「すべての商業タイトル」「新規商業タイトル(2020-)」の3つに分類しました。すべてのタイトルはマルチプラットフォームであるため、絶対的なダウンロード総数はこの表に記載されているよりも多くなりえます。
特徴
声優を起用したボイス有のゲームは多くのオーディエンスを惹きつけており、声優が起用されることは予算が潤沢にあるゲーム会社のゲームの証ともいえます。
プレイヤーがキャラクターの性別を選べるようにすることでLGBTQ+を取り入れると、より多くのプレイヤーを獲得できる可能性があるでしょう。
成功しているゲームの中には、初めてゲームを作る開発者や比較的無名の開発者の手によるゲームもありますが、ゲーム開発の実績があることは成功の可能性を大きく高めていると言えるでしょう。
日本の乙女ゲームで英語にローカライズしたものは、本場日本の厳しい競争を勝ち抜いた高品質ゲームであると信じられており、欧米のプレイヤーは一般的にこれらのゲームにお金を払うことを厭わない。
モバイルゲーム
この調査には、プレイヤーが性別を選択できる恋愛系ゲームと、プレイヤーキャラクターの性別が言及されない/常に女性であるゲームが含まれる。
特徴
モバイルのビジュアルノベルで求められるものは、PCやコンシューマーベースのビジュアルノベルとは異なります(例えば、乙女ゲーム『アムネシア』はモバイルで配信されていますが、PCやコンソールに比べてはまったく人気がない)
プレイヤーはカスタマイズや、物語をよりインタラクティブにするゲームプレイや選択肢があることを好みます。すべてのモバイルゲームは、プレイヤーが一度に少量のストーリーを受け取れるように最適化されています。
声優の起用は、PCやコンシューマーと同じく予算が潤沢なゲームであることの証とされます。
プレイヤーが性別をカスタマイズできる、あるいはゲーム内でプレイヤーキャラクターに性別が不明になることで、より多くのプレイヤーがゲームに参加することができるようになります。
データの出典元一覧
Data.ai, Gamalytic, and Sensor Tower were used to analyse each game cited; separate citations for each game have been excluded for brevity.
Celiana (2018) ‘An in-depth look at what otome players want’. Available at: https://tailortales.wordpress.com/2018/12/03/an-in-depth-look-at-what-otome-players-want/
Data.ai (2024) ‘IQ for Games’. Available at: https://www.data.ai/intelligence/game-iq?game_iq.tab=definitions
Eshkenazi, L. (2019) ‘Otome Survey Results’. Available at: https://docs.google.com/document/d/111wM7wu8em6Gciy5e89q1gqlU494Le28__OJUWyghlc/edit
Gamalytic (2024) ‘Games List’. Available at: https://gamalytic.com/game-list
r/otomegames (2020) ‘r/otomegames Census 2020 Results - Demographics’. Available at: https://reddit.com/r/otomegames/comments/imqajj/rotomegames_census_2020_results_demographics/
r/otomegames (2023) ‘Dating Sim Survey’. Available at: https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSd2Z1T3rzVyBEKvxHJJEHErsPN4OrlwtnDf_kJFmrb5P94iqw/viewanalytics
Sensor Tower (2024) ‘Marketing Intelligence for the Global Digital Economy’. Available at: https://app.sensortower.com
Steamdata.ninja (2024) ‘Otome tag’. Available at: https://www.steamdata.ninja/tag/Otome (Accessed: 7 April 2024)
VGChartz (2018) ‘Code:Realize - Sousei no Himegimi for PlayStation Vita’. Available at: https://www.vgchartz.com/game/84963/code-realize-guardian-of-rebirth/summary (Accessed: 7 April 2024)
VGChartz (2020) ‘Collar x Malice for PlayStation Vita’. Available at: https://www.vgchartz.com/game/131448/collar-x-malice/?region=All (Accessed: 7 April 2024)
Social media platforms for Co-Star Astrology: Instagram, TikTok, Twitter
Social media platforms for Forage Friends: Instagram, TikTok, TwitterSocial media platforms for MeChat: Facebook, Instagram, TikTok, Twitter
Social media platforms for Obey Me!: Facebook, Instagram, Twitter
乙女ゲームプレイヤーの年齢の元データ
2023年度調査 - 643回答者 , via r/otomegames
2019年度調査 - unknown respondents, run by a popular indie dev
2018年度調査 - 776回答, also run by a popular indie dev who does ~adult materials~
2020年度調査 - 1400 respondents, also r/otomegames
おまけ
さてさて、前回のブログの中でスウェーデンで爆誕したビジュアルノベルのスタジオ、Rotten Raccoons(腐った狸達)ですが、その後の活動を報告します!
itch.ioでのデモ1.5章版が累計ダウンロード10万を超えました。
現在はここ近日リリースされた若しくはこれからリリースされるインディー乙女ゲームの開発者で集まってクロスプロモーションをSteamとitch.ioで行っています。
ビジュアルノベルファンは、常に良いヴィジュアルノベルを探している為、こういう風に開発者同士がお互いに認めたビジュアルノベルなら胸を張ってクロスプロモーションできるのがとても強みです!みんなでビジュアルノベルを広げていこう!という和気あいあいした雰囲気で一緒に宣伝活動をしてくれる仲間がいるのもとても心強くもあります。
itch.io上でのコメントも700件を超え、とても暖かい応援の声が多くとても励みになりますし、Discordメンバーも1200名に。Xは5000Followerを突破しました。ゲームの製作はみんな本業がありつつ行っているのでゆっくりですが、近日2章をアーリーアクセスとして公開予定にしており、もくもくと作業を続けています。また公開されたらブログを書こうと思っています。
この自作のPCゲーム作成中に乙女ゲームの市場調査をしてしまい、モバイルゲームの収益の桁違いな情報を見て、なんでモバイルゲームにしなかったんだという胸のざわつきが収まらないこの瞬間を「モバイルには移植するし!やはり好きなゲームを作れることも幸せなことなので、今回は三章まで作り切ろう!」という気持ちでモヤモヤを収めています。
売れるゲーム=自分たちが作りたいゲームが一致することはミラクル
でももしかしたら、自分たちが作りたいゲームを待っている人がいるかもしれない。いやきっといる!
それを信じて、今日も開発し続ける、そんなインディーな日々なのです。
それでは、乙女ゲームの市場調査、どなたかの情報の糧になれば幸いです。
乙女ゲームよ、世界にはばたけ!