なぜ、ゲーム開発者は「圧倒的に好評」を目指すのか?Steamゲームはレビューで応援できる!

やっとゲームが完成し、ウィッシュリストもある程度集まって、さあ本日Steamでゲームをリリースしました!
その瞬間からインディー開発者の頭を悩ませることの1つが「いかに高評価レビューを多くのプレイヤーに書いてもらうか?」です。

「レビュー評価って悩むほど重要なの?」と思われるかもしれません。

これがとても重要で、ゲーム開発のカンファレンス「GDC」でもSteam低評価レビュー対策だけで講演が認められる(※GDCでは学ぶ価値があると認められないと講演できません)ほどの問題なんです。その理由を今回は紹介します。

4gamer:[GDC 2023]Steamにおける「低評価」レビューを事前に食い止めるには。フォーラムの活用法を示唆する講演をレポート

では、レビューが良いとどんなことがおきるか見ていきましょう。

レビューが良いと起こりうる5つの事

1.評価が高いとユーザー行動でトラフィックが増える

「圧倒的に好評だからちょっとストアページを見ておこう」、「賛否両論だからウィッシュリストに入れているけど無視しておこう」など、とか皆さん経験はありませんか?


Steamでは様々な場所で評価が表示されます。結果、評価が高いとトラフィックも購買率も増えると考えられます。
単純化すると、売上とは「トラフィック(ストアページへのアクセス数」×「購買率」ですから、レビューが良ければ売上が良くなると考えられます。


ただ、この影響があるのは確実ですが、実際のところどの程度影響を及ぼすのかわかっていません。多くの調査データからレビュー数が多く好評なほど売上が多いことはわかっていますが、レビューが低かったらそれがどうなったのか立証できないからです。

しかし、Bethesdaが『スターフィールド』のレビューに返信したときに「恐らくアルゴリズムに大きな影響を及ぼすから」と語っており、大手の開発者の間でも影響がかなりあるものとして信じられています。


ちなみに弊社が関わる『パスパルトゥー2』のSteamのケースを話すと11月22日から1週間、直近のレビューが圧倒的に好評になりました。
その際、嬉しすぎて記念に動画を撮りました。去年の4月にリリースしてから、ずっと非常に好評だったものが、パッチを何度も何度も繰り返し、バグを潰し、やっと圧倒的に好評まで行きました。95%以上が100件以上圧倒的に好評になるので、このまま直近のレビューが圧倒的に好評のまま行けば、全てのレビューも圧倒的に好評まで持っていけるはずでした。が、セールが始まって、アップデートしたらちょっとバグが発生してしまい、今では直近のレビューも非常に好評に戻っています。

下記は、『パスパルトゥー2』のSteamページの流入グラフです。圧倒的に好評だった1週間ちょっとが赤線の期間だったのですが、通常よりはトラフィックは増えていましたが、これは恐らく(確実に)Steamの秋のセールのせいです。

ちょうど圧倒的に好評の時期と秋のセールがかぶってしまって本当にレビューが良くなったおかげで流入が増えたかどうかは、今回は数字としてはわかりませんでしたが、また直近のレビューが圧倒的に好評になる可能性は十分にあるので、その時に再度データをとってみようと思います。


また、これは高いというより、低い時の話ですが……Steamの評価が「賛否両論」より落ちると露出がシステム的に減ります(=トラフィックが減る)。これは多くの実験で検証されてきましたが、最近Valveがこれについて明言しています。

ここまでくると、話題作でない限りかなり絶望的です。
もし、あなたが面白いと思ったゲームの評価が不評だったら……ぜひレビューしてあげてください。そのレビューが死の淵から這い上がる蘇生呪文になるかもしれません。


2.Steamのシステム的に有利になりうる

Valveは「賛否両論」では露出に影響がないとしていますが、例えば「あなたのようなプレイヤーに好評」で賛否両論のゲームが出てくることはあまりありません(考えてみると好評に基づくおすすめなのだから当然です)。
好きなゲームを高評価でレビューしてもらえると、似たようなゲームが好きな人に届き、売上が上がります。
おそらく、こういった「好評が多いほど出てくる」レコメンドは説明されていないだけで他にもあると考えられます。

3.バンドルやセールなどのオファーを受けてチャンスをつかめる!

Steamのなかで似た雰囲気のゲームや、プレイヤー層が似通っているゲーム複数集め、割引でセット販売する「バンドル」。
高評価だと「一緒にバンドルしませんか?」と他のスタジオやパブリッシャーから連絡がくることがあります。また「限定XXX縛りのセール!」などのイベント時にも評価が高いほど声をかけられる可能性が高くなります。


バンドルのメリットはSteamだけにとどまりません。
ゲームのバンドル販売で有名になったHumble Bundle(現在はパブリッシャーでもあります!)。前にその担当者にゲームを選ぶ基準をきいたとき、「売上が小さくても評価が高ければバンドルに誘うときもある」と語っていました。
あまり売れていなくてもレビュー評価が高く、一定層に支持されているゲームは見いだされるチャンスがあります。
特にHumbleはSteamのKeyを販売しているのでSteamの評価と数は一定以上は何かしらの指標にはしているでしょう。

バンドルは効果ですが、これは実際に先月2023年12月にHumble BundleとWholesome Gameで開催したWholesome Game Bundleのチャリティバンドルに『パスパルトゥー2』で参加した際の話をするのが良いでしょう。

https://www.humblebundle.com/games/uplifting-adventures-wholesome-games-bundle

このバンドルに選ばれていたのは2022年から2023年にリリースされたWholesome(暴力が少なく健全に遊べる。例:どうぶつの森)なゲームの中でも、非常に好評、圧倒的に好評を得ているゲーム。TGA2023でインディーゲームアワードに輝いた『Venba』など多数の有名ゲームがこの中に含まれます。

上の図の赤い矢印は、バンドルがリリースされた日のSteamアクセス数です。
HumbleとWholesome Gamesでアナウンスされ、Humbleのプラットフォームで販売されたのにも関わらず、Steamへの流入も増えました。HumbleはSteam Keyを販売しているので購入者がSteamに来るのは当たり前といえばそうなのですが、初日でのこのスパイクは訪問者も多く含まれます。これは、新規プレイヤー獲得や認知拡大にとても効果的なキャンペーンとなりました。

レビューが良いと、こういったチャンスが生まれます。

4.メディア露出が増える!

「〇〇発売、圧倒的に好評の出だし」、「レビュー数1万件で非常に好評の××が50%セール」などの見出しの記事をゲームメディアを見ることはありませんか?

メディアもSteamのレビューを見ていて、とくに「このゲームは聞いたことがないけどどうだろう」という微妙なタイミングではレビューを参照して露出を決めることもあると聞いています。
つまり、レビューが良ければメディアにポジティブに取り上げられるチャンスが増えるのです。

5.開発者が喜ぶ!

これは精神論ですが、長い時間をかけて開発したゲームが評価されることは、非常に嬉しいことです。何年もかけて作り上げたゲームを面白いと思ってくれるプレイヤーがいて、それが形になっている事実がインディー開発者の力になるのです。

特定言語圏に向けたローカライズもそうですね。たとえ売れた件数が少なくとも喜びの声が多ければ「やってよかったかな」となります。


以上、代表的な考えられることを5つ紹介してきました。
将来、Steamが評価が良いほど露出が増える仕様変更をすることもありえるわけで、不確定要素を考えてもレビュースコアは良いに越したことはありません。


逆にレビューの評価が低いとすべてが逆転します。レビューが低いほど売上は下がり、逆転のチャンスを掴む可能性は低くなっていくわけです。悲しすぎます。

だから、開発者はおふざけで低評価レビューをしてほしくないし、面白いと思ってくれたプレイヤーにはレビューして欲しいのです。最近でも海外で話題になって日本のメディアが取り上げたので見たことがあるかもしれません。

「Steam不評レビューを使って大喜利しないで」と業界人が呼びかけ。おふざけ低評価で売り上げに打撃の可能性


レビューが低いければ精神的にも厳しい。低評価を受けて失敗を学び、その悔しさをバネに次回作を作れるならそれで素晴らしいのですが、低評価でゲームが売れないとゲームを開発し続ける生活ができず、そこでインディーゲームスタジオを畳んで、他の大手のゲームスタジオに就職したりするケースも多いです。



レビューが大事なことはわかった、で?
ということで、お伝えしたいことがあります。

好きなゲームをレビューで推してください!

ということです。

好きなゲームをポジティブにレビューすると、売上、開発者の精神衛生上も良い影響があり、開発の継続につながります。が、日本ではそのことがあまり知られていないか、ハードルが高く感じられているのかな、と感じます。

以下はSteamのデータ会社Steam Data SuiteのOscarが発表したSteamの全レビューを元としたデータですが、日本のレビューは世界で最も低評価率が高く、世界平均よりも9%もレビュースコアが低い国になっています。

実際のデータです。
もっともポジティブでないレビューをつけるトップ五カ国。

参考までにポジティブなレビューをつける国トップ五カ国。

ちなみにSteam Data Suiteを使うとポジティブレビュー、ネガティブレビュー、そして何にたいしてレビューが書かれているかのトピックをサマライズしてくれます。通常はSteamの情報のほとんどをトラッキングしてくれる可視化してくれるツールです。

上記のデータから「日本のプレイヤーはゲームに厳しい」みたいな感じに見えると思うのですが、国ごとにレビューに対する思想や5段階評価の基準が色々違ったりするので一概になんとも言えません。

もしくは、Steamの参考になるレビューを見ると細かく長く書いてあるので、「レビューって大変だな」と思っている方が多いのかな、とも思います。
でも、実際に書くことは「このゲームで××ができて面白かった」だけでも十分で、多くの人は気楽にレビューしています。

実際の例を見てみましょう。左はインディーゲーム『Cocoon』のストアを開いたときのレビューで「うわ、みんな細かく書き込んでいるな」と思うかもしれません。でも、実は表示されているのは「参考になった」順で、「最近のレビュー」順に表示すると右のように短文ばかりになります。

要するに、文字数の多いレビューばかり目立つけど、多くの人は短く感想を書いているということです。怖がらないでください。
面白いと思ったゲームに気軽レビューしていただけるだけで、そのゲームは一歩ずつ前に進む力を得られます。

あと、レビューが高い傾向があるとβテストとかもやりやすくなります。「日本人は品質にこだわりがあるので完成品を…」みたいな婉曲な言葉でテスト地域・先行リリース地域から外される、みたいなことも減るでしょう。


もちろん、お金を払っている以上、消費者として言いたいことを書く権利はプレイヤーのみなさんにあります


開発者として言うと、嘘のレビューまで書いて高評価が欲しいとまでは思っていません。
その上で、もし少しでもゲーム楽しんでもらえたら、良かったと思う部分をレビューに書いてもらいたいし、直してほしい部分があれば、それも書いていておいて頂ければ開発者側として真摯に受け止めます。
本当に修正されていってポテンシャルがあると思ったら、そこからポジティブ評価に切り替えてもらえればやる気もでます。そして修正後、そのゲームがもっともっと世界のたくさんのプレイヤーに評価されることにつながります。

もし本当にゲームが遊べないレベルでだめであれば、それはそう書いて頂くか、Steamの返品時に返品の理由を書いてもらえれば、そこもちゃんと見ているので、その方がいいかもしれません。

インディー開発者は毎日Steamページを見ています。
できれば応援も含む形で評価をしていただけると、恐らく開発者にとっても、プレイヤーのみなさんにとっても、ゲームの将来においても、いい未来が待っているんじゃないかな?

Neon Noroshiのチーム、私たちは、そう願っています。



それでは本日のまとめ!

なぜ、インディー開発者は「圧倒的に好評」を目指すのか?

それは、プレイヤーのみなさんにゲームが支持され、露出、売上を上げるためのビジネスチャンスがたくさん舞い降りてくるからです!!!

そして、チャンスをものにすれば開発を継続し、皆さんに面白い(と信じる)ゲームを提供し続けられるからです。

ぜひ、面白いと思ったらそのゲームをレビューしてあげてください。

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